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258-1 外界を緩やかに感じられる音楽ホール

写真は、昨年11 月に竣工した「空のある音楽ホール」です。

建て主様ご夫妻は音楽を趣味とされており、特に奥様はヴァイオリンでプロの演奏家と共演されるほど。ご主人もピアノを演奏されます。そんなご夫妻が生活の一部として使用するための音楽ホールを、やはり音楽が趣味という山本卓郎氏が設計されました。

場所は世田谷区の活気ある住宅街。建物の前面道路はバス通りで交通量も多く、周囲はマンションに囲まれています。一見すると演奏会を行える音楽ホールがあるとは想像がつかないような敷地で、今回の計画がスタートしました。
「クラシックの演奏に適した静謐な環境とは言い難いロケーションです。だからと言って周囲の環境を遮断し閉塞感のある建物を設計して『どうぞ楽しんで下さい』というのも違和感がある。『音響的には一旦クローズして音をシャットアウトするが、それでいて外の広がりある世界と繋がっていることが感じられるようなホールを作りたい』という想いがありました」と山本氏。

ホールに入ってみるとまず目を引くのは足元に位置している青空。
天を仰いで見るのが当たり前の風景なだけに一瞬何が起こっているのかわからなくなります。しかしその青空が空間に眩しいほど光を反射させ室内に差し込むことで、外部から想像される空間とは全く異なった世界がホール内に作り上げられています。

「周囲が建物に囲まれていることを感じさせないため、室内から空だけが見える場所を選んで窓を設置しました。その結果高い位置に窓が集まっていますが、上の方向に空があるのはある意味当たり前。そこでピアノの背後の低い位置にも窓をつくり、そちらでも空が見えるようにしています。窓の内側に鏡を設置し、それが上空の空を映し出しているのですが、いきなり『鏡に映っています』と説明してしまうのもつまらない。皆さんにはまず、予備知識なしでただその景色を感じてほしい」

こけら落としには10 人ほどのお客様をお招きして演奏会を行ったそうですが、当日は適度な雲がずっと流れている空の様子を眺めることができ、それが皆さんに非常に好評だったとか。

「今はまだたくさんの方をお招きできる状況ではないのが残念ですが、いつかもっと多くの方々にホールの雰囲気を含めて音楽を楽しんでもらいたいですね」と手ごたえを感じられた山本氏でした。

258-2 空のある音楽ホール

演奏者・オーディエンスファーストの空間

音楽ホール内の天井と壁は、フラットな面のみで構成された場合特定の音が大きく反響してしまうため、RC の一部を石ノミで細かく叩いて仕上げる「小叩き」とし、表面に凹凸をつけた。これによって共鳴音の集中が抑えられ、かつ音が適度に散ることで楽器の響きがまろやかになり、空間全体の音響性能を向上させている。音響面ではコンサルタントとして永田音響さんに入っていただいたが、このような材料・仕上げ面でのノウハウの他、演奏者に自身の音を聴き取り易くするための反響板の設置など、多くの面でアイディアの提供を頂いた。

今回採用した断熱材は旭化成の「ネオマフォーム」。高い断熱性と環境性能、耐燃焼性能を兼ね備え、その上厚みが従来品より薄い。「空のある音楽ホール」のようなRC 造では、RC 自体の蓄熱量が非常に大きいので、その外に高機能の断熱材を使用することによって「石焼き芋の石をジャンパーで包むような」高い外断熱効果が確保されている。外壁にも様々な配慮があり、躯体・ネオマフォーム・防水層・仕上げの木製サイディングを順に貼り、何重にも各層を重ねることで断熱性・遮音性を高めることが出来た。建物前面はルーバー状のバトンを貼ることでビスが見えないよう工夫されており、意匠面でのこだわりも反映されている。

建物全体の温熱環境については、輻射式冷暖房のPS を採用して対応をおこなった。楽器は、温度・湿度で音色が全く変わってくるため空気調和設備の性能は非常に重要な要素だが、ホールの収容観客数が50 人を超えることもあり、容量的にもかなりの能力が求められることになる。これらの要求を満たし、かつ演奏中に動作音のない空調設備として輻射式冷暖房は最適であり、前述したRC・外断熱の組み合わせとも相乗効果が期待できる。

快適な環境のためには換気設備も同様に重要だが、こちらは動作音自体を無くすことができず、給気管・排気管を通じて屋外とも接続するため、騒音や音漏れの原因となりかねない。ここでは排気設備そのものを屋外に設置して騒音源を室内から遠ざけると共に、永田音響さんのアドバイスに従い、風切り音が発生しないようなダクト製作上の工夫を随所におこなっている。

以上のように性能面でも多くの配慮が積み上げられた建物だが、これらひとつひとつのこだわりは、全て演奏者とそれを聴くオーディエンスが心から楽しめる空間を作ることを目的としている。音楽という共通の経験を参加者全員が分かち合うことができた時、初めて全ての設計意図が意味を持ち、建物として本当の完成を見るだろうと考えている。

(山本卓郎氏 談)

構造︓RC 造+S 造(混構造)
規模︓地上3階
用途︓事務所兼用住宅
設計・監理︓山本卓郎/山本卓郎建築設計事務所
施工担当︓能田・伊藤
竣工︓2020 年11 月
撮影︓鈴木研一・山内紀人

258-3 「 音楽と建築」 山本卓郎/山本卓郎建築設計事務所

今月は「空のある音楽ホール」の設計者、山本卓郎氏にお話を伺いました。
航空機設計を志し京都大学工学部機械学科に入学されましたが、そこで建築に出会い、志望を転換して早稲田大学理工学部建築学科へ入学し、建築を学ばれたそうです。

―機械工学から建築がいいと思われたきっかけはなんだったのでしょうか。
山本︓京都大学時代にジャズをやってまして、その時の友人に建築学科の学生が多かったんです。「ジャズ」と「建築」は努力して真剣に楽しむものという意味で似ているらしく、相通ずる部分があるみたいですね。友人の一人に誘われて建築学科の研究室に行ったのですが、研究室の壁にはロバート・メイプルソープの美しい花の写真のポスターが貼ってあったんです。一方機械学科の研究室には、アイドルのポスター。どうやら建築学科の方が気が合いそうだ、と思ったのが興味を持ったきっかけです。

ー建築学科に再度入られるとしても受験するには時間が必要だったのではないですか。
山本︓そうですね、京都大学を卒業してすぐに建築学科というわけにもいかなかったので、一般企業に就職して一年半勤めたあと退職し、半年くらい勉強して早稲田大学と京都大学の編入試験を受けました。両方受かりましたが、建築学科の友人に建築をやるのなら東京へ行くほうがいい、と勧められて早稲田大学に進学することになりました。

ー早稲田大学ではどの先生に建築を学ばれたのでしょうか。
山本︓卒業論文は古谷誠章先生の研究室でした。4年生くらいの頃からアトリエ・ワンの作品に興味を持ち始め、塚本先生のいる東京工業大学の大学院に進学することも考えたのですが、早稲田の大学院には推薦で進学することができたので、その時点で塚本先生に師事することにはなりませんでした。その後、大学院を卒業したもののアテにしていた仕事の話がなくなり、急遽新たな行き先を探さなければならないぞ、となったのが4 月2 日のこと。
ダメで元々とアトリエ・ワンの塚本先生にメールでコンタクトしたところ「来ていいよ」と。大学院を検討する際にお会いしてお話したのを憶えていて下さったんですね。それでアトリエ・ワンへ行くことになったんです。

ーアトリエ・ワンの塚本由晴先生・貝島桃代先生は全国的にご活躍されていますね。
山本︓国内だけでなく、当時からお二人とも世界的に活躍されていて海外でも教鞭をとられていました。住宅設計の依頼も多数あり、毎日忙しくされていましたね。

ー独立後は、住宅設計を中心に、多方面で設計をこなされる山本先生ですが、今回の「空のある音楽ホール」はどういった経緯で設計されることになったのでしょうか。
山本︓建て主さんの構想自体は13 年くらい前からあるものなんです。最初は山裾の土地に別荘兼演奏するスペースを作ろう、という計画でした。ただ、なかなかお客様にきてもらえそうにないということもあり、紆余曲折を経て最終的には「やはり東京で」ということになりました。ご自宅も近いし、ここは生活の一部として使えるようにと奥様へ配慮されたご主人からのプレゼントなんだなと我々は解釈しています。ご主人ご自身もセミナーのような形でお使いになることが想定されており、音楽に限らず様々なジャンルでお二人の発信源として使っていただけるとうれしいですね。

ー素敵なお話ですね。本日はありがとうございました。

 

山本 卓郎(やまもと たくろう)

1973 年  滋賀県生まれ
1996 年  京都大学工学部機械学科卒業
1996 ~ 97 年 日本電気株式会社
2001 年  早稲田大学理工学部建築学科卒業
2003 年  早稲田大学理工学部建築学科大学院卒業
2003 ~ 05 年 アトリエ・ワン勤務
2005 年  山本卓郎建築設計事務所設立
2010 年  『F-WHITE』で 「DESIGN FOR ASIA 2010」 銅賞
2011 ~ 13 年 芝浦工業大学非常勤講師
2014 年  『白い洞窟の家』で「THE INTERNATIONAL
ARCHITECTURE AWARDS」受賞
2013 ~ 15 年 早稲田大学非常勤講師
2017 年  『大きなテラスの小さな家』で「GOOD DESIGN
AWARD2017」受賞

258-4 「はつせ三田」と「TREES] が日本建築協会優秀建築100 選に選ばれました

SHINCLUB248 号で紹介いたしました「はつせ三田」と、同じく245 号で紹介いたしました「TREES] が、日本建築協会優秀建築100 選に選ばれました。
それを受け、日本建築協会が発行している「JIA 建築年鑑2020-2021」にそれぞれ掲載されています。

受賞対象作品は、2018 年から2020 年に竣工した建物とし、その応募作品の中から選定された「優秀建築選(100 選)」、現地審査、最終審査を経て選定された「JIA 日本建築大賞」「JIA 優秀建築賞」ほか、現在の建築の潮流がわかる優秀作を掲載しています。

 

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「裏参道テラス」が新建築に掲載されました

今年3月に竣工いたしました「裏参道テラス」が、新建築8月号に掲載されました。

南東側の北青山三丁目地区まちづくりプロジェクト「ののあおやま」の隣地に位置し、庇やテラスが積み重なる構成の建物です。

【裏参道テラス】
構造︓S造
規模︓地上6階
用途︓店舗・共用住宅(全3戸)
企画︓ATOMIC ʻS
設計︓フジワラテッペイアーキテクツラボ
構造設計︓小西泰孝建築構造設計
設備設計︓森村設計
竣工︓2021 年3 月
撮影:ⒸNacasa&Partners Inc.FUTA Moriishi