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251-1  弥生(町)に暮らす

 

「Sunny Letter 弥生」 撮影:アック東京

写真は文京区弥生に建ちあがった親子3世代の賃貸併用住宅です。地下1階、地上5階の、重厚な打ち放しコンクリートの建物は、「SHINCLUB249号」でご紹介した「Barbizon 23 ANNEX」の設計者、リバックス建築環境計画の計良篤美氏の設計です。

建て主の阿部信治様は、明治時代から続く日本画の筆を制作する工房「清晨堂」の店主・筆職人で、多くの日本画のプロの方のための筆を作り続けてきました。近くの東京藝術大学だけでなく、多摩美術大学や武蔵野美術大学、女子美術大学などの非常勤講師も務められ、すぐ近くの池之端に暮らして35年が過ぎました。現在は次男様に工房を譲られています。

今回の取材をお願いすると、「この家の建て主は長男です。長男が一緒に住もうと言ったのでこの建物を作ることになりました。が、企画や調整は建築に詳しい親父に任せると彼が言ってくれて、私自身は建て主ではないんですが」と照れながらも快諾くださいました。

「長男の嫁も嫌がらず、お父さんも年を取って心配だから一緒に、と。孫たちにとっても、親だけでなく祖父母、従弟たちと小さいうちからいろんな人間関係の中で育つのは良いことだと思います」と阿部様。

この街を愛し建築にも大変興味があった阿部様は、実は既にすぐ近くに計良氏の設計で、21年前に「異人坂館」という重厚なコンクリート打ち放しのマンションを建てられています。

「この地域は森鴎外や夏目漱石の小説の舞台として、有名です。
『三四郎』なんか読むとよくわかるのだけど、登場人物が街を歩くときに、坂を上がったり、下がったりする描写があるでしょう。僕はその描写でどこの事を言っているのかわかります。学生の時に団子坂に下宿していましたが、当時はエアコンがなくて夏は暑くて、涼むために路地から路地まで歩き回りました。小説の中の事を感じながら歩くのが楽しくて。今でも起伏は昔のままですよ」

阿部様は、その後も不動産情報を常にチェックされていました。この弥生界隈に限定すると、2年で3つくらいしか出てこない物件情報。しかし出たらすぐに見に行って、計良氏に相談の電話をすることを繰り返されてきました。
今回の土地では、計良氏から「5階建ちますよ。真北測量してください」と折り返し電話が来たので、すぐに測量依頼。「真北測量」とは 建物を設計する際に、日照時間などを調査するために必要な測量です。周辺では3階しか建たないところ5階建つという事で、事業計画としても見通しが立ったのです。

こうして親子3代の家の計画はスタートしました。

※「建物概要」は251-2へ

 

 

251-2 Sunny Letter 弥生

打ち放しコンクリートの重厚感あふれる3世代住宅

敷地は文京区弥生の閑静な住宅街にあり、高台から傾斜した小さな道に面している。以前、同じ弥生の高台に16世帯の共同住宅を設計して以来、約20年にわたって交流が続いているオーナーの、今度は御子息が建て主としてつくる、3世代同居賃貸併用住宅の設計を担当させていただくこととなった。

21年前「異人坂館」と名づけられたその建物は、コンクリート打放しの建物をこよなく愛するオーナーの希望で、型枠脱型そのままの荒々しさと経年による風格が感じられるよう、あえて黒光りするレトロな風合いの仕上りとした。
今回、建て主は御子息に代わったが、コンクリート建築が好きなお父様の希望を尊重され、外観は当時と同じ打放しコンクリートの重厚な趣を活かすことになった。

敷地を最大限有効活用すべしという事業家的な側面では親子共にブレはない。
日影規制をギリギリ躱し(かわし)、各種法的緩和を徹底的に活用した結果、容積率をフルに消化した地下1階、地上5階という周囲と比べてひときわ高い建物が実現した。

この建物には3-5階に子(建て主)世帯、1-3階に親世帯と計3世代が暮らしている。玄関も異なる独立した両住宅だが、3階に設けた1つの扉で繋がっている。お互いが適度な距離感を保ち、独立した生活を営みながら、親世帯にとっては時折扉から訪れるお孫さんの賑やかな声に、同居する楽しみも見出すことができる。
地下と1階の計3戸の賃貸住戸が収益に貢献しているが、遠い将来には1-3階の親世帯も賃貸にリニューアルできるよう、予め計画されている。

子世帯の設計には奥様のご希望を極力取り入れるよう心掛けた。キッチンからお子様の様子が見える開放的な吹抜け空間、汚れにくく掃除しやすい仕上材、埃溜りができにくい納まりなどもその一つである。内装は明るい白を基調としたペイントに、木質の床・天井・家具を合わせ、落ち着きある空間を目指した。

なお、お父様の書斎は大学の後輩でもある岡村裕次氏が担当した。本に囲まれて暮らしたいという本好きのお父様の希望に応え、見事な空間を考えてくれた。建築関係者を労い、折につけ一献傾ける会を続けて下さるお父様の信頼を得た仲間の一人でもある。
「次はどんな建物を建てようか」建築話に花を咲かせながら、我々の夢がまた広がるのである。

 

(計良篤美氏  談)

 

構造:RC造
規模:地下1階、地上5階
用途:共同住宅(賃貸併用住宅)
設計・監理:計良篤美/リバックス建築環境計画
施工担当:佐々木・岡本
竣工:2020年10月
撮影:アック東京

251-3 阿部信治/「Sunny Letter 弥生」オーナーの父上

「建物は長い将来を見据えて建てるもの」

今月は、「Sunny Letter 弥生」の建て主の父上、阿部信治氏にお話を伺いました。
阿部:日本画の筆を作るという仕事をずっと池之端で続けてきました。日本画のプロの方の注文や芸大の授業など移動も多いので、この地を離れるわけには行きません。子どもたちも生まれ育ったこの街を大事に思ってくれていますね。

建築は昔から好きで、このすぐ先に鉄筋コンクリート造で「異人坂館」というマンションを21年前に建てました。
設計はリバックスの計良篤美君です。近隣対策も見事で、ずっと付き合いたいと思いましたね。竣工後も、お世話になった施工会社や設計者の人たちと飲みながら建築の話を聞く会を設けています。そういう日頃の付き合い、信頼関係で建物のメンテナンス、管理がきちんと行われると思います。「今度入居者が退出する」と伝えると、施工会社のメンテナンス部が飛んできてすぐにいろいろとチェックしてくれます。
そんな仲間に計良君の後輩、岡村裕次君がいて、彼が1か月に1回主催する「建築散歩」も大好きで、彼の講釈を聴きながら、街の建築をめぐるという会に参加しています。先日、辰さんが手掛けた千駄ヶ谷の公衆便所も見てきましたよ。

鉄筋コンクリートの外壁には2種類ありますよね。今はつるっとしたきれいな打ち放しの外壁が主流のようですが、僕は本来、コンクリートは自然にゆっくり汚れてどんどん色が黒くなっていくものだと思っています。「異人坂館」ではお化粧をしないで、コンクリートらしいままで良いと、打ち放しコンクリート本来の味わいを優先しました。雨だれも目立たなくなるし、メンテナンスをしなくていい。今回も辰さんに、「同じようにしてください」とお願いしました。つまり、補修を一切しないで、コンクリートにカーボンを入れた撥水剤を塗って、最初から少し黒くして、より質感を出しました。監督さんは半信半疑だったようでしたが。

今は設備などが飛躍的な進歩をしていますが、「鉄筋コンクリートの施工方法は基本的に変わりません。でも減水材を入れるのが普通になりました」と監督さんから聞きました。20年前は減水材を入れることについて、設計と施工がもみ合っていましたがね。今はもう当たり前みたいになっているらしいです。
土木の堤防や橋梁の基礎は、スランプ10以下と聞きます。今でも減水剤無しの施工で明治時代の建物がちゃんと残っているところもあります。私はコンクリートは質感が大事だと思っています。塗り重ねると本来の質感、重量感がなくなるのです。クラックやジャンカもそういうものだと思えばいい。そういうのが嫌な人はタイル張りにすればいいんです。
だから、最初に打つ時には祈るような気持ちでいます。地鎮祭はそういう意味でもどんな宗教も関係なく、きちんとするべきことなんです。工事の成功を祈るという気持ちが大事なんです。

当初、辰という会社をあまりよく知らなかったんですが、計良君に勧められました。表参道の画廊に行ったとき、地下鉄の出口の前に大きく「表参道けやきビル(通称:BOSSビル)」が目の前に現れてびっくりしましたね。「型枠どうやったんだろう」と建築好きなら誰でもすぐ思います。「こんなねじれた柱を建てられるんだから、技術力ある会社だろう」とね。

建物は建てたら終わりじゃなくて、メンテナンスがほんとに大事。竣工後半年くらいは、いろいろな不具合がでるものです。辰さんはこれからもっとメンテナンスに力をいれたらいいですね。大規模改修は必ずやらなきゃならないものだし、皆で建物を長い目で見ていい状態に維持していくことが大切です。
今回「異人坂館」に1戸空きが出たので、現場事務所として利用してもらいました。施工する人に現場が近くてやりやすい環境を提供できたと思います。大好きなこの場所で新たな建物づくりを楽しませてもらって、ほんとに感謝しています。

―本日はどうもありがとうございました。

 

阿部 信治(あべ しんじ)

1952年宮城県生まれ
元・清晨堂店主。40年以上日本画筆製作に従事。東京藝術大学・武蔵野美術大学等でも非常勤講師を務め、一昨年、家業を次男阿部悠季氏に譲る。
「清晨堂」 https://seishindoabe.com/
(工房のため、直接のお問合せはご遠慮ください)
以下の画材店は創業以来清晨堂の筆を取り扱っている日本画材店です。筆を手にとれて、絵具等各種画材も充実しているとのことです。
■㈲ 得應軒 台東区谷中1-1-22 TEL:03-3823-4116
■絵具屋三吉 横浜市中区不老町1-4-12 TEL:045-641-9318
■ウエマツ 渋谷区渋谷2-20-8 宮益坂下 TEL:03-3400-5556

251-4 「2020 社内イノベーション大会」開催 

「2020 社内イノベーション大会」開催  2020年12月5日(土) 於 渋谷商工会館

恒例の「社内イノベーション発表会」が実施されました。「全社員の創意工夫で、より良い会社を目指そう」と社員がプレゼンテーションを行うものです。今年は形式を変え、A~Hまで、3~4人x15チ―ム編成で競うことになりました。
各チームの発表は5分を持ち時間とし、次の4項目について審査員が10点満点で採点します。
①実現性、具体性、リアリティ
②独創性、オリジナリティ、画期的
③チームワーク、プレゼンテーション
④情熱、向上心、改革的
また各チームも1票を持ち票として自分のチーム以外に投票、一番票を集めたチームに20点、2位に10点が加点されます。
審査の上、次のような結果となりました。
◆1位 (賞金¥80,000) 「T+SHIN」
Hチーム(村山・川崎・堤・村上)
◆2位 (同 ¥40,000) 「辰ブランドのイメージ戦略」
Eチーム (鷲尾・石井秀・高沢・田中)
◆3位 (同 ¥20,000) 「SHIN , GET  UP  !!!!」
Dチーム(村田・肥田・幾原・伊藤)
◆参加賞 (¥10,000)   上記以外のチーム

 

「講評」  吉田健司 ㈱辰監査役   ㈱ ZEN ホールディングス取締役監査等委員 ㈱ビット89代表取締役

1位のHチームは、つかみのうまいプレゼンテーションが見事だった。一個人である社員の夢と会社との関わりをイメージでつなげたバランスの取れた発表だった。全体的にインスタグラムやスマホのアプリなどを利用した提案が多く、今の時代が多彩な発表の場を持っていることを改めて感じさせてくれるものだった。
大学の経営学部で組織論を教えていた経験で言えば、企業の活性化は、トップのリーダーシップも大事だが、自分の会社の問題、例えば「研修体制を見直したらどうか」ということが率直に言い合える組織風土が育っていることも重要だ。今回の発表は会社がもっと伸びていくというイメージが掴めた機会だった。次回も今年以上に夢の持てるアイディアを期待している。