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248-1 大きな家

「はつせ三田」 撮影:稲継泰介

写真は、昨年末竣工した「はつせ三田」です。地上7階、地下1階で、外観は開口部がアットランダムに開かれ、他のマンションのように、どのくらいの階高の部屋がいくつ中に収められているのかよくわかりません。想像すると楽しくなります。建物の内部には、心地よい風が吹き抜けていくように見えます。

コロナ禍を経て、働き方に対する見方が大きく変わってくる中で、集合住宅の在り方も変化しています。リモートワークに配慮して、家族間でも一定の距離感が求められ、SOHOは当たり前のようになり、各住戸はいろいろな用途を備えてフレキシブルな使い方ができる場所が必要になりました。共用部分やその外側の地域につながる部分についても、長い時間の変化に耐えられ、地域にとっても有用な存在になる要素を備えていると、どんなに好意的に受け止められることでしょう。

この建物を設計した、井原正揮氏と井原佳代氏は、オーナー一家のために、多彩なプランを用意し、賃貸部分と合わせながら、家族構成、年月の変遷に耐えて、家族が住戸内の転居も可能なように「大きな家」を作りました。メゾネット、トリプレットもある建物は、中央の吹き抜けの階段室で各住戸をつないで、外からのセキュリティを守りながら、内側では専用部のインナーテラスを使った光や空気の抜ける空間を作り上げています。
コロナを迎える前の計画でしたが、図らずもそのコンセプトは、今、働く若い世代が、まさに求めている住まいに合致したものとなっています。

桜田通りの鰻のお店を入ったところ、周辺には高級マンションが建ち並びます。さすがにこの白金・三田地域の賃貸料は高額になってしまいますが、取材に訪れた時に小さなお子様連れの親子にたくさんすれ違いました。近くに豊岡町児童館もあるからでしょうか。共働きで頑張っておられることでしょう。

仕事も子育ても行うには、都心は大変かもしれませんが、この地域で暮らすということであるならば、人と人のつながりを抜きにしては考えられません。私たちは、プライベート重視から、少し外に出て人と何かを共有できるスペースがあることで「STAY HOME」していた人々が心のよりどころを取り戻しているシーンをSNSで何度も見ることができました。家から1歩も出るなと言われた時に、マンションの中庭で体操をするインストラクターとともにベランダで身体を動かしていたお年寄りたち。コロナと戦う医療関係者を屋上からバイオリンの演奏でたたえたアーティスト。人との絆を大事にする開かれた空間が、この建物にも見えます。「一住戸=一家族」ではない柔軟な繋がり。アウトドアキッチンがあり、1階にはカフェも入るということで、街に新たな明るさを与えてくれることでしょう。

248-2 はつせ三田

グリッドで構成され、半内外空間がエコロジカルな共同住宅

敷地は魚籃坂下に近い、桜田通りから一本入った静かな住宅街である。大きな高級マンションが立ち並ぶ区画と低層住宅が連なる地域の中間に位置し、当初からいわゆるデザイナーズマンションを建てようという計画ではなかった。
再開発により自宅を出ることになったオーナー一家のために、住宅を建てるか、マンションを購入するかというスタートを経て、将来の家族構成や時代の変化を受け止めることのできる共同住宅を建設しようという提案を行うに至った。
通常よくある賃貸部分の最上階にオーナー邸を設けて、下層階を賃貸部分に、という区分けでなく、「大きな家」という捉え方で、全13住戸をフラット、メゾネット、トリプレットと、異なるデザインとして、各居室を家族が住み分けることとした。時間が経つにつれ、引っ越しも可能というものである。

建物は1350㎜間隔で配置した310㎜角の柱のフレームを元にグリッドで構成され、中央部の「めぐり土間」とする屋根と吹き抜けのある鉄骨の共用階段により、光や空気、また視線も抜ける半内外の「余白」を作っている。
「めぐり土間」は層をなし、各住戸をつなぐとともに、周囲に設けられたオープンテラス、インナーテラスが明るさと新鮮な空気を内部に送り、階段の踊り場のベンチにはコンセントも用意している。居住者が居室を出て、第2の書斎、憩いの場所として利用できる空間である。共用テラスにはアウトドアキッチンも設けられ、交流の場としても機能する。

未曾有の転換点を経験し、働き方も多様になってきた今、皆、オープンであることがプライベートやセキュリティを守り、「シロ(代)」という選択肢のある空間が「豊か」さにつながるということをわかり始めているのではないだろうか。

(井原正揮氏・井原佳代氏 談)

所在地:港区
構造:RC造
規模:地上7階、地下1階
用途:共同住宅(全13戸)
設計・監理:井原正揮・井原佳代/ihrmk
構造設計:鈴木啓+長谷川理男/ASa
施工担当:中村、富安、小林
竣工:2019年12月
撮影:稲継泰介

248-3 井原正揮・井原佳代/ihmrk一級建築士事務所

「選択肢があることが豊かさにつながる」

今月は、「はつせ三田」の設計者、井原正揮氏、佳代氏ご夫妻に登壇いただきます。
—お二人はご出身がともに「シーラカンス(※)」ということでしたね。
※シーラカンスアンドアソシエイツ=CAt(C+A tokyo)とCAn(C+A nagoya)の2つの事務所を拠点に、国内外で建築を発表している設計事務所。小嶋一浩・赤松佳珠子(CAt)、伊藤恭行・宇野享(CAn)の4人によって設立された。

正揮:私は、東工大の大学院を出た後、CAnに入っていました。出身も愛知でしたから。当時、辰が施工していた「田園調布の家」の模型など作っていましたよ。
—そうでした、田園調布はCAnさんでしたね。有名な美容家のご自宅の跡地に建った大きな物件でした。名古屋と東京の事務所で、スタッフの往来は結構あったのですね。
正揮:4人のパートナーの下でやるプロジェクトもあり、私はそのスタッフとして結構仕事をしましたね。7年くらい在籍し、その後東京へ移って独立しました。

佳代:私はキングストンを出て、別の仕事もしていましたが、CAtに入ってプレスを担当しました。入社当時、東アジアの大学のプロジェクトなど、CAtでは海外の仕事も多く、英語でのコミュニケーションの必要性がありましたので。その後結婚して名古屋に移り、子供の生まれるタイミングで、私の実家のある東京に移ってきました。

—独立されてからは、住宅も多く手掛けていらして、全国展開されていますね。
正揮:海外からの依頼もありますね。アメリカに住むインドの方の住宅設計の依頼をいただいたり、日本で集合住宅を建てたいというフランス在住の方の仕事をしていますが、このコロナ禍でEUと日本の間の行き来が制限され、仕事が止まることがあります。何が問題かというと「押印」ができないことです。銀行の融資や住民登録。「実印登録が整っていないと先に進めない。押印が必要」というこの習慣は何とかならないものかと実感しています。

—政権が変わって、押印に対する考え方が変わる兆しは出てきましたが、当分続くのでしょう。このコロナ禍で、会社に行くのは「ハンコを押しに行くときだけ」という話も聞きます。
取材前、この近くで子連れのお母さんをたくさん見かけました。保育園もたくさんあるようですね。
佳代:そうですね。私たちも2歳と5歳の子供がいます。この建物の計画のスタート時には、コロナのことを意識しないで周辺環境になじませつつ、開放的な空間を目指したのですが、リモートワークが普通に認知された今、住宅の在り方に対する社会の見方は大きく変わってきたと感じます。「はつせ三田」は、セキュリティもプライベートも最初から開いていることで、安心であり、外からは中につながっていく感じ。以前手掛けた「ひな壇基礎の家」でも同じように光や風を取り込んでいます。
正揮:「鉤の手の立体交差」という建物では、見通せる面と見通せない面を平面的、立体的に混ぜた「鉤の手」のような構成で居場所によって裏表が入れ替わる路地のようなものを提案しました。
「〇DK」と表現される住居より、数字に入ってこない場所がいっぱいあること、居場所の選択ができる余裕が豊かさにつながると思います。その「シロ」が空間を豊かにすると思いますね。

―本日はありがとうございました。

 

井原 正揮(いはら まさき)

1980年 福岡県生まれ 愛知県育ち
2002年 名古屋大学工学部社会環境工学科卒業
2003-2006年 東京工業大学大学院理工学研究科建築学専攻
2007-2014年 シーラカンスアンドアソシエイツ
2015年 ihrmk 開設
2016年 株式会社ihrmk設立
2020年- 駒沢女子大学非常勤講師

井原 佳代(いはら かよ)

1979年 東京都生まれ
2002年 神奈川大学工学部建築学科卒業
2003-2004年 キングストン大学大学院美術・デザイン・建築学部
2006-2009年 シーラカンスアンドアソシエイツ
2016年 ihrmk 参加
2017年- 神奈川大学非常勤講師

 

受賞歴

2015年「風景を通す家」 Bronze A’Design Award 2015
2018年「ひな壇基礎の家」 リネアタラーラ オーダーキッチングランプリSHOW 2018 グランプリ
2020年「はつせ三田」 グッドデザイン賞

248-4 「お客様・設計者様と新たな交流の『場』をつくる」ための プレミーティング開催

10月30日金曜日、弊社7階会議室において、「辰が施工会社としてお客様と設計者様ともっと情報交換を行える場があれば」という願いから、辰のカスタマー室室長、小関の発案で、若手設計者の方々4人にお越しいただき、忌憚のないご意見をいただくミーティングを開催させていただきました。
4人の方はいずれも弊社がこれまで施工させていただいた設計事務所の所員として勤務され、物件の担当者でもあった方々です。

小関カスタマー室室長は日々の業務の中、施工後一定期間を経た中で生じる様々な不具合の情報をもっと、これから新築を手掛ける設計者の方に伝えたいという率直な思いを伝えました。
経験豊富な再生建築部部長窪田も出席し、また建設資材を扱う会社の渡辺弘司氏には最近の住宅建築の動向をここ数ヶ月の実際の感触から述べてもらいました。

最近では、設計以外の役目も行う設計事務所もある中、コンサルティング会社との協働を進めることでプロジェクトがうまくいった例や、キャッシュフローやファイナンスについて学ぶことで設計の本来の善し悪しを改めて考えさせられたという意見も聞かれました。不動産会社や土地のオーナーの方々との交流も有用で、技術的な話題だけでなく、一般のお客様や学生さんともざっくばらんに話せる機会もつくりたいという声も聞かれました。

読者の皆様もこんな機会があるといいなと思うことがありましたら、どうぞご意見をお寄せください。

( 辰カスタマー室 小関まで。t-ozeki@esna.co.jp)