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250-1 年頭のご挨拶_2021 ㈱辰社長 岩本健寿

「千駄ヶ谷駅前公衆便所」 撮影:アック東京

 

新年、明けましておめでとうございます。

皆様方におかれましては、健やかに新たな年をお迎えのことと、お慶び申し上げます。
本紙はこの度、節目である250号の発行となりました。
2016年11月、渋谷ヒカリエにて200号記念の「SHIN CLUB展」を開催させていただきましたが、現在まで継続発行できているのも皆様方のご支援ご指導の賜物と改めて感謝申し上げます。次の節目300号までご愛読いただけるために進化させていく所存です。

昨年、世の中は未曾有の災禍となりました。元々建設業界は景気の後退局面に突入しており、追い討ちを掛けられた状況になった訳です。弊社は幸い全作業所において、工事を完全休止することはありませんでしたが、リモート打合せによる効率低下・一部資材納入の遅れ・作業内容の自粛縮小などにより、少なからず影響を受けました。新規案件の進捗停滞による受注機会の喪失があったことも否めません。
今年も当面は変わらぬコロナ禍であり、アフターコロナの建設業界はより厳しさが増すでしょう。そのような状況下、建設会社としては付加価値があったり、差別化されたオリジナリティのある会社が生き残ると考えております。弊社は引続き建築屋という施工の専門店を維持し、愚直に建物づくりに取り組んでまいります。 「辰に頼んでよかった」そんなお言葉をいただくことが何よりの喜びです。社員一同、情熱をもって精進してまいります。
今後とも何卒変わらぬご愛顧賜りますよう、謹んでお願い申し上げます。

2021年元旦   株式会社辰 代表取締役   岩本 健寿

250-2 千駄ヶ谷駅前公衆便所

既存公衆トイレの概念を変えた、アートのような大空間

 

谷尻:渋谷区は、2020東京オリンピックを機に、国立競技場の目の前にある「千駄ヶ谷駅前公衆便所」のリニューアルを計画した。(日本財団が行った16人の建築家による「THE TOKYO TOILET」プロジェクトとは別)そのプロポーザルで我々は、「機能を満たすこと以上にトイレ自体を目に留まる公共建築と捉え、観光で巡ることもできるような付加価値を持つことが大切」という話をさせていただいた。

吉田:首都高速高架線の下と地下鉄出入口の間という平面の広がりを得られない場所ではあったが、アートのような空間体験の面白さを出したいと考え、一つの塊としての彫刻のような在り方、ある種の違和感を街の中に出すため、建物を過度に大きくしている。
それはトイレの持つ「行き止まり感」「狭い」「臭い」というマイナスのイメージを払拭するためでもあった。そして中心にトイレブースや手洗い等の必要な機能を固め、本来閉じるべきコンクリートの外壁の四周を地面から50㎝浮かせ、空気が入り、光が入ることで「内」と「外」という明確な境界をぼやけさせている。

谷尻:建物に透明性が出て、人の気配を感じ取れる安心材料になっている。コンクリートの重量感を開放するような「重たいのに軽い」という矛盾、「閉じた外壁と開かれた内部空間」が持つ「対比」はアートに重要な要素である。

吉田:内部の壁は「リタメイト」によりコンクリートの硬化を遅らせ、「洗い出し」効果の仕上げにより質感を出した。一方、トイレブースにはアコヤ材や真鍮のサインなどホテルのような佇まいを持たせ、利用者の丁寧なふるまいを引き出すようにしている。
手洗い場は入口の正面に一つだけ設置し、男性・女性が関係なく利用できる。入口から男女別である既存のトイレの仕様より、誰にとっても合理的、機能的な環境となっている。

谷尻:メンテナンス面でも清掃が1か所で済む。ジェンダレスの時代、世界中から訪れる人のためにも総合的な判断が働いている。

吉田:建物両端には、車いすの旋回スペースを設け、その壁にはギャラリースペースも設けている。街をめぐる更なる楽しみにもなることだろう。

(谷尻誠氏・吉田愛氏/SUPPOSE DESIGN OFFICE  談)

 

所在地:渋谷区千駄ヶ谷駅前
構造:RC造
規模:地上1階
用途:公衆トイレ
設計・監理:谷尻誠・吉田愛/SUPPOSE DESIGN OFFICE
施工担当:鯨津・森村・鍋島
竣工:2020年8月
撮影:アック東京

 

250-3 谷尻誠・吉田愛/SUPPOSE DESIGN OFFICE

「建築のその先を考える」

今月はSUPPOSE DESIGN OFFICEの谷尻誠氏、吉田愛氏にご登壇いただきます。
―2012年、弊社では沼袋の集合住宅「La Torretta」を施工させいただき、谷尻先生にいろいろとお話を伺いました。今回は、まず吉田先生にご自身の建築に対する取り組み方などをお聞かせいただければと思います。

吉田:常に皆が持っている既成概念を変えるようなものを作りたいと考えています。トイレ1つとってもその概念をどう壊すか、どんな制約があるかを考えると、建物の可能性が広がります。それから私は外が好きなんです。ものの動きがない内部はあまり得意じゃない。自然が持っているすごさを感じ、建築という人工物の中に想定できるものを考えていきたいですね。

―これまで東京・広島と2拠点に活動を続けられていますが、2017年に、東京事務所を社員食堂であるカフェなどを併設したスペース「社食堂」として、リニューアルオープンされました。ずいぶん広く、一般の方も食事ができるのですね。

谷尻:設計事務所というより新しい働き方を体現するというものですね。「絶景不動産」という会社も作り、一緒に入っています。見捨てられた場所からどういう空間をつくるか。協業し、何を建てるべきかを考えています。

吉田:思い出深かったエリア・イノベーションに昭和の鉄骨造の旅館の再生プロジェクトがあります。さびれていた旅館に本屋を組み込み、「本屋でありながらホテル」というものを作ったのですが、受付は少し離れている建物に置き、全体に機能を分散させ魅力的なコンテンツを作りました。すると街の人やそこに入ってくる人たちが新しい事業を展開する動きが出始めました。最初の起爆剤となることで街が活性化する―社会問題を建築やインテリア、デザインが解決することを目の当たりにしました。

谷尻:僕らがやっていることはすごい「建物」をつくることではなくカスタマーとしてそこにあってほしいものを大事にすること。建築家はコンセプトを考え、「それを建物という形に落とし込んで完成させる」と言われますが、僕らにとってそこは通過点。その先の「どう使われるか」を射程距離としてとらえています。

吉田:考えること、考え続けることに興味があり、私たちはその部分を求められていると思います。デザインだけでは好みや時代性もある。でも新しい考え方、方向性をアウトプットしていくことが何よりも需要があるのだと思います。

谷尻:自分たちは設計がそんなにうまいとは思っていない。それでも設計を頼まれるというのは、そこだけでない部分に寄り添っているところが大きいんじゃないかな。

―最後にこのコロナ禍についてのお考えを聞かせてください。

谷尻:働き方だけでなく暮らしそのものを考え直す、いいきっかけになっている。これくらい衝撃的なことがないと社会全体がそこに向き合わない。ハッピーではないけれでも自分たちを見つめ直すいいタイミングになっていると思う。うちの会社も設立20周年を迎え、仕切り直しをするいいタイミングです。

吉田:この出来事で唯一良かったことは、世界中が同じ状況になって一緒になって考えるというスタンスが生まれたこと。皆「なぜこうなったんだろう」「自分は実際何がやりたかったんだろう」と考え、本質的にやりたかったことが明らかになっていく。私たちもどういうことをやっていくべきか考える機会になっています。

―本日はどうもありがとうございました。

 

谷尻 誠(たにじり まこと)

1974年 広島県生まれ
1994年 本兼建築設計事務所
1999年 HAL建築工房
2000年 建築設計事務所suppose design office 設立
2014年 SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd. 設立 共同主宰

穴吹デザイン専門学校非常勤講師、広島女学院大学客員教授
武蔵野美術大学非常勤講師、昭和女子大学 非常勤講師など。
2015年- 大阪芸術大学准教授
社食堂、絶景不動産、21世紀工務店、未来創作所、Bird bath & KIOSK、tectureを経営

 

吉田 愛(よしだ あい)

1974年 広島県生まれ
1994年 穴吹デザイン専門学校卒業
1994年 株式会社井筒
1996年 KIKUCHIDESIGN
2001年 Suppose design office
2014年 SUPPOSE DESIGN OFFICE Co., Ltd. 設立 共同主宰

2017年 絶景不動産株式会社設立 共同主宰
2017年 社食堂開設
2018年 Bird bath & KIOSK開設

250-4 「千駄ヶ谷駅前公衆便所新築工事について」 報告:㈱辰会長 森村和男

今月号でご紹介した「千駄ヶ谷駅前公衆便所新築工事」で久しぶりに現場監督の一人として工事に臨んだ前社長森村和男会長から工事の感想を報告させていただきます。

2020年、予定されていた東京オリンピック・パラリンピックに向けた渋谷区発注の工事入札が2月7日に行われた。入札に先駆けた概算では、7月完成という工程に対し、こちらの予定は1カ月以上余分にかかる計算である。金額的にも厳しかった。更に6月からは競技場周辺の道路規制が予定されている。その時点で社内に適当な現場監督がいないという事もあり、受注に反対の意見も少なからずあった。
しかし私は、久しぶりにコンクリート造の大胆なデザインの建物の施工を前に、密かに可能な工程表、予算の想定をしており、否定的発言が出尽くした後、「うちの理念は『情熱・挑戦・進化』、誰もやらない仕事に挑戦しなければ存在価値はない」と若手を付ける条件で、自分が現場をやると宣言した。翌日入札が行われ、懸念事項が多いことで他2社は辞退し、当社が落札した。現場代理人はグループ長鯨津、係員は私と鍋島という3人体制。肩書の入っていない名刺を注文して本社を後に現場に赴いた。

工事開始後、いくつかの難関に遭遇する。
・更地が条件であったにも係らず、隣接する駐輪施設の廃止が未終了で契約から約1か月近く工程に大きな影響となる。
・敷地は大江戸線の国立競技場駅出入口から10cmという立地。第三者の安全を優先した仮囲い、遣り方が求められた。
・コロナ渦で監理者との打ち合わせはリモートが常態化。意思疎通が不足し衝突する場面も多々起きる。お互い「より良いものを作る」という「情熱」の塊から真剣勝負だった。
一方、新型コロナウイルスの感染は世界に拡大。3月30日には正式に東京オリンピック・パラリンピックが2021年夏に延期されることが決まった。役所から「延期なので工期が延びてもいいですよ」の暗示。それまで、何が何でも「やる」と言っていた現場の空気が一変した。躯体工事までの順調さとは打って変わり、益々仕様が決まらない。流れを食い止めるべく打ち合わせは更にヒートアップした。

・7月上旬、急に役所の責任者から、「オープンセレモニーを7月24日に行うことになりましたのでまとめて下さい」と連絡が。あと1か月は必要な工事を9日でやらねばならない。押し問答の末何とか目処がついた頃、今度は「コロナを考慮して1カ月延期してください」との通知。正直力が抜けていったが、現場に公表すれば必ず志気が下がると考え、予定は曲げなかった。

・いよいよ8月22日、竣工式典を迎える。名簿を前日に確認して愕然とする。当社社長のみ「㈱辰代表」との記載だけで名前もない。テープカットも挨拶も予定になく且つ末席であった。これには怒りをこえて失望した。施工会社は「棟梁」であり、本来は主役である。すぐに抗議するも大きな変更はなかった。挫折の中、契約上は「対等な立場で」となっていても、発注者は絶対で、設計者が上位であり、施工者は蔑まされている現実を知る。このような状況が続く限り建設業界の発展は先細り、魅力の無い産業となってしまう。建設業協会を巻き込んだ活動が必要であると痛感した。
今回、現場復帰の目的でもあった、本社の課題、現場の課題、ZENとしての課題など20点以上の改善点を発掘したが、最後に遭遇した「業界としての課題」が最大級であった。